アクティブ・チャイルド60min.

moriyasu11232010-05-06

『一日60分以上の運動で子供の心身充実 日体協などがガイドライン
子供に一日60分以上の運動を−。5日の「こどもの日」を前に、日本体育協会などのプロジェクトチーム(PT)が、小学生向けに健康で社会性を持って生活するための運動時間をガイドラインとして4年間をかけて策定し、1冊の本にまとめた。健康や精神面など、多様な視点から60分以上の運動の必要性を指摘。同協会スポーツ科学研究室の森丘保典主任研究員は「子供の体力が低下傾向にある中、子供を啓発する国内初のガイドラインとして活用してほしい」と話している。
文部科学省が全国約5万人の小学生を対象にした2004年度調査では、運動時間が一日60分以上あるかどうかで、体力レベルに差が出ることが判明。そこで同PTでは改めて日常生活の満足感など精神面と運動時間との関係を精査したところ、時間の増加に合わせて精神面の充実度の向上がみられる一方で、120分以上になると低下傾向に変わることが分かった。
こうした調査結果に加え、生活習慣病の予防や運動習慣の形成に必要な運動時間、欧米など諸外国の例も参考に「一日60分以上」と結論づけた。文科省調査で半数以上の児童が「一日60分以上」を実現できていない実態があるため、運動時間には、体育の授業や校外でのスポーツ活動、公園でブランコに乗ったり、階段を上ったりする時間も算入。森丘研究員は「運動をやる人とやらない人が二極化しており、実践しやすいように敷居を低くした」と説明する。
ガイドラインは、「アクティブ・チャイルド60min.─子どもの身体活動ガイドライン─」(サンライフ企画、税別2千円)として発刊。子供の健康やメンタルヘルスなど多分野の専門家が、運動の必要性や効果を調査データなどを用いて検証している。保護者や教員向けに編集されており、子供が運動しやすい環境を作るための具体例も14通り紹介。熊本県の小学校では、昼休みを倍の50分に拡大し、全教員が校庭に出るなどしたところ、窓ガラスが割れたりする問題が減ったという。
森丘研究員は「子供の体力低下を止めるには、大人の意識も変えないといけない。保護者も運動不足になりがちで、一緒に体を動かしてほしい」と訴えている。
(2010年5月5日 産経新聞より抜粋)

担当したプロジェクト研究に関する書籍が、サンライフ企画より発刊された。
「こどもの日」にちなんでの紹介を依頼したところ、産経新聞が快く応じてくれた(金子さん、小川さん、ありがとうございました)。
内容は、日本体育協会のスポーツ医・科学研究事業として行われた「日本の子どもにおける身体活動・運動の行動目標設定と効果の検証(代表・竹中晃二早稲田大学教授)」というプロジェクト研究の成果にもとづいたものである。
記事には「日体協など…」と書いてあるが、紛れもなく「日体協の」プロジェクトである(きっぱり)。
研究概要についてはコチラ→「第1報」「第2報」「第3報
ちなみに6日現在、Amazonではまだ購入できない(はよせいAmazon!)。
本書の要諦は直接手にとってご確認いただくとして、売り上げには影響しないと思われる拙稿を再録する。

近年、子どもの体力低下が問題視され、国(文部科学省)も「子どもの体力向上」を施策の柱のひとつに位置づけています。しかし、私たちに必要な体力とは何か?(どのくらいか?)と問われたときに、即座にその答えを出せる人はいないでしょう。なぜなら、「必要な体力」は人間の生活環境によって変化し、また「望ましい体力」も個人の生き方や価値観によって異なると考えられるからです。
そのような差異を超えた、人間にとって共通普遍な「体力」は、果たして存在するのでしょうか。
ドイツの人類学者であるアイクシュテットは、1900年代初頭に「(人間の)自己家畜化」という概念を提唱しました。人間は、「人工環境の中でしか生きられない」「食料を自力でとらなくてよい」「天敵や気候変化から守られている」といった家畜化の条件に当てはまる文化的・社会的環境を築き上げて自らを家畜のごとく管理し、また「(からだを含む)自然」を破壊する能力をもってしまった結果、「気候変化」や「環境破壊」のみならず、からだに関わる「抵抗力(免疫力)の低下」「心身症」「生活習慣病」「体力低下」などの様々な問題が引き起こされている、という指摘です。
生活生存のために多くの身体活動・運動(以下、運動)を必要とする「採集・狩猟」という生活様式は、地球上に我々の祖先が誕生して以来およそ300万年という長きにわたって人類の進化史を支えてきました。定住を可能にした「農耕・牧畜」という都市文明の歴史は、約1万年から始まったとされていますが、人類史からみれば僅か1%にも満たない時間に過ぎません。私たち人間も「動物」である以上、他の動物と同じように行動の基となる「遺伝子プログラム」があると考えられますが、「農耕・牧畜」以降の1万年という時間が、300万年もの長い時間をかけてプログラミングされてきた「採集・狩猟」遺伝子を変化させるのに十分な時間とは言い難いでしょう。言い換えれば、私たちは、1万年前の「運動を必要とする遺伝子プログラム(からだ)」のまま、「運動を必要としない社会環境」に適応している、というより「耐えている」と言えるのかもしれません。
カルポビッチというスポーツ科学者は、哲学者デカルトの「われ思う、故にわれ在り」に対して、「われ思い、われ動くが故にわれあり」を提唱しています。我々が、「動き(運動)」によって意思を表し、目的を果たし、そして発達する「動物」であることを考えれば、カルポビッチの主張はデカルトのそれ以上に重要な意味を帯びてくると思われます。
こうしてみてくると、我々「人間」に必要なのは「運動」であり、「体力」は「運動の結果」に過ぎないという当たり前のことに改めて気づかされます。
日本体育協会では、この「体力低下」という問題をきっかけとして、「人間(子ども)に共通普遍の体力とは?」という難問に向き合いながら、子ども達が体を動かすことをいとわなくなるために必要なことは何かについて、様々な視点による実践的な研究を進めてきました。
本書は、その研究成果の一端をできるだけ分かりやすく解説しようとしたものであり、関係者の熱いメッセージも込められています。
運動(体力)が「必要」だという考え方は「強制」に向かいがちですが、「欲求」に任せればよいという考え方も「放任」に流れやすくなります。重要なことは、異なる価値観をもち、また異なる生き方をする人間(子ども)一人ひとりが、日常生活やスポーツなどの様々な「運動」と関わる過程で、どうしたら体を動かすことが「好き」になり、それが「大切」なものになるのかということをリアルに問い続けることであると考えています。
巷間、「子は親(大人)の背中を見て育つ」と言われますが、我々は自分自身の背中を見ることはできません。そして「子は親(大人)の鏡」、すなわち自分の背中を見るために必要な「鏡」とは他ならぬ「子ども達」である、ということも忘れてはならないでしょう。
本書が、大人と子どもが共に変わるためのきっかけとなれば幸いです。
(拙稿「次世代を担う子どもたちのために 〜大人と子どもの「Change」を目指して〜」より)

関係者の皆様、ほんとうにありがとうございました。
是非、ご一読ください。