アクティブ☆チャイルド☆プログラム講習会

moriyasu11232012-11-29

気がつけば「師走」も目前。
毎朝「日常という名の奇跡」に感謝しながら歩く登園路も冬の装いである。
そんな寒い冬の間(明後日から2月末)に行われる「アクティブ・チャイルド・プログラム講習会」に向けて勢い?をつけるために、2年前に行われた「アクティブ・チャイルド60min.─子どもの身体活動ガイドライン─」の出版記念座談会のテクストを再録する。

竹中 日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会の研究プロジェクトで、「子どもの身体活動ガイドライン」を発表しました。この研究プロジェクトの目的は、日本の子どもに必要な身体活動量や行動目標を決めて普及啓発していこうというものです。プロジェクトの成果をまとめて、今後の普及啓発の道具としていくために、『アクティブ・チャイルド60min.』という本を出版しました。運動をしている子どもとまったくしていない子どもの「二極化」が指摘されています。私たちの研究プロジェクトが推奨する「毎日、合計して最低60分以上からだを動かそう」という行動目標、しかもその内容は通学やお手伝い、階段を上がることから子ども自身が楽しいと思える遊びまで、内容は何だっていいんだよという行動目標は、どんな子ども、たとえばスポーツに興味がない、得意でない、また勉強や習い事に忙しい子どもにとっても、行動の自由度が高くて実施可能です。何でもいいからからだを動かそうという提案は、子どもにとって、単に身体の健康づくりや不定愁訴の予防だけでなく、こころの健康づくりや社会性の強化など様々な恩恵をもたらします。
<現代の子どもに見られる諸問題>
水村 小学校教諭として子どもたちを見続けていますが、いまの子どもたちはとても忙しいように感じます。毎日、学校が終わると学習塾をはじめとする習い事に追われているようです。ですから、からだを動かして遊んでいる暇はないし、行き帰りも危険を避けるために親が送迎をするので必然的にからだを動かす機会がありません。スポーツ少年団などでサッカーや野球をやっている子どもたちは放課後もからだを動かして遊んでいるようですが、多くの子どもの遊びの内容は携帯ゲームが中心となり、なおさらからだを動かさないようです。「二極化」を目の当たりにしています。
小松 小学校の保健室に勤務していますが、最近の子どもたちはとても疲れているようです。一時間目の授業からすでに、机の上に伸ばした腕にぐったり顔をのせている子どもがいます。アンケートをとってみると、「眠い」「疲れている」という答えが多く、驚かされます。姿勢も悪いですね。「楽だから」と言って背すじを丸くしていますし、じっと立っていることも座っていることも難しいようです。
増田 以前、ジベタリアンという言葉をよく聞きましたが、当時は「立っていられない」「足の力が弱い」と危惧されたものです。現在は、さらに上半身の力も衰えているかもしれないですね。
森丘 「楽だから」というのもあるでしょうが、「自分は疲れている」とアピールしているようにも感じられます。ジベタリアンにしても、クネクネしているにしても、無意識にせよ、何らかのメッセージを周囲に発しているのかもしれません。
小松 いまの子どもたちは特に腹筋が弱いのかな、と感じます。たとえば運動会の練習で、寝た姿勢から起き上がってウェーブをするというものがあったのですが、起き上がれない子どもが多くて驚きました。
森丘 そのような動作を経験したことがないというのも少なからずあるように感じます。
竹中 確かに、やったことがない動きが多いようです。生活の中での遊びにしてもお手伝いにしても、いまの子どもは動きとしての経験が不足しているようです。ですから様々な場面で、できない動作が多いのは当然かもしれません。
森丘 スポーツの現場でも、たとえば小さい頃からサッカーしかやっていない子はボールキックは上手なのですが、ボール投げをやらせてみると上手に投げられないということがあります。いろいろな遊びを通して自然に身につけることができていた動作ですが、一つの種目に特化するあまり、積極的にスポーツをしている子どもでさえも動きの発達に偏りが見られるようです。
増田 基礎的な動きは外遊びを通して身につけられるものだと思いますが、子どもたちはそれができていないのでしょうね。大学で実技を教えたことがありますが、学生の中にスキップができない男の子が多くて驚きました。とてもおかしなステップを踏むので、「遊んでいない証拠だな」と感じたものです。私自身、「スキップってどこで習ったんだっけ?」と振り返ってみたのですが、特に習ったというわけではなく、自然に身についたものです。
水村 子どもたちは放課後に遊ぶ約束をして、帰宅してから約束したところに集まって遊ぶわけですが、そこに約束をしていない子が来ると一緒に遊ばないのです。逆に言えば、約束をしていない子は輪に入っていけない。そのことが以前から気になっています。アポなしの遊びはだめなのだそうです。子どもたちの“つながり”が浅くなっていることを感じています。では、どのような遊びをしているのかと見てみると、ゲームをしているんですね。一緒に遊ぶといっても、向き合っているのはテレビ画面であって、友だちはそこにいるのですが、ゲームと遊んでいるようなものです。
森丘 アポなしが敬遠されるのは、遊びの内容が室内ゲーム中心だからでしょうか。予定していた人数よりも多く集まると逆に困るのかもしれません。
竹中 以前実施した調査で、「友だちと予定が合わないから遊ばない」という意見が目につきました。スケジューリングというのは重要なポイントです。また、勝ち負けのあるスポーツでは遊びたがらない傾向も見られました。もっとゲーム感覚で楽しめるレクリエーション的な工夫をしないと、からだを動かして遊ぶのは難しいのかもしれません。
森丘 どちらが勝つかわからないというゲーム性に「遊び」のおもしろさがあります。起源をたどれば、スポーツも遊びの一種です。力関係が均等になるように自分たちで調整して、どちらが勝つかわからない状態にして楽しむという遊び方もできるはずですが、「スポーツは勝てばいい」という風潮があるためか、上手に遊ぶことができない。どちらかというとスポーツが苦手な子は、それを見て「面白くないな」と、さらにスポーツから遠ざかってしまっている側面もあると思います。
<“きっかけ”をどのようにつくるか>
増田 よくマラソンのイベントにゲストランナーとして参加しますが、親子マラソンを開催しているところが多くあります。親子で一緒に参加するのはいいですね。親には生活習慣病予防となりますし、子どもも元気に走れば心身ともにたくましくなります。黙々と走るのではなく、親子でふれあいながらにぎやかなイベントを楽しむのは、きっかけとしていいものだなと思います。地域の行事に家族で参加するのは一つの方法ではないでしょうか。
竹中 子どもだけに何かをさせるために親が連れて行くとなると、親にとってはそのことがハードルになってしまうかもしれませんね。スポーツ少年団も、親への負担が大きく、なかなか子どもを参加させられない面があるようです。
森丘 スポーツ少年団に限らず、自分の子どもの面倒は親が見るべきという風潮があります。もちろんそれはそうなのですが、指導している人たちも保護者に応分の負担を求めて当然という意識がより強くなってきており、本来的な意味でのボランティアから遠ざかっているという実態もあります。
水村 当番などの義務が多く、特に共働きの世帯などではどうしても義務をこなせる状態にないので、子どもは入りたくても入れないという話は多いようですね。
竹中 子どもに何かすごいことをやらせようと思うと親の負担も大きくなってしまいますよね。もっと簡単なこと、たとえば公園で遊ぶとか、野球選手を目指すのではなく親子でただキャッチボールをして遊ぶとか、そんな働きかけでも子どもはずいぶん変わると思います。私たちは、どのように親が働きかければ子どもが活動的になるかという研究もしています。まず公園などに「子どもを連れて行く」。次に「一緒に行なう」。3つ目は「褒める」。4つ目は「モデルになる」。こういった働きかけの種類があると思うのです。親からのわずかな働きかけが大切です。
森丘 私の子どもが通う保育園の運動会で、親の綱引き競技がありました。年長クラス、つまり保育園生活最後の運動会だったので「優勝しないとダメでしょ」という雰囲気になりました。そこで練習会を企画して、いざ公園に集合してみたら、なんと親子総勢60人くらい集まりました。みんなで練習して、そのうち子どもたちも一緒にやって、夜は大宴会。とても楽しかったのですが、後になって「これが組織化されていったら、ここまで多くの人たちが集まるだろうか」と考えました。こういう活動をきっかけに、組織化されたクラブのようなものに発展していけばいいという考え方もあると思うのですが、そうなると逆に参加しにくくなる人もでてきてしまうのではと感じます。
竹中 ゆるやかな集まりでないと、つまり組織が固定化されてしまうと、参加しにくいものになってしまうのでしょうね。
森丘 先ほど子どもを公園に連れて行くというお話がありましたが、一組の親子でやれる遊びというのはかなり限定されます。また私の体験談になりますが、保育園の保護者仲間に「いまから公園に子どもを連れて行きます。一緒に遊びませんか?」とメールします。するとたちまち複数の親子がやってきて、子どもも5〜6人集まったりします。そうなると子どもは自分たちで勝手に遊びますから、親は時々交じったりしますが、眺めていればいい。難しいことではなく、親同士で声をかけ合うだけで、子どもたちはバリエーション豊かに遊ぶことができます。
<大人はどのように働きかけるべきか>
水村 子どもを取り巻く環境が変わり、子どもたちの価値観も変わってきているのかなと考えさせられます。親や学校からのはたらきかけなど、子どもがからだを動かすように場を設定する工夫が必要になっていると感じます。しかし、近ごろの教員は書類作業などがとても増え、忙しさが非常に増しています。放課後に子どもたちと一緒に遊ぶ時間を確保できない状態です。
増田 子どもの価値観が変わったとお聞きして思うのですが、外遊びをする子が少なくなった現状の中で、からだを動かすことの楽しさを心から味わっている子どもがどれだけいるのでしょうか。楽しむというより先に、結果を気にする傾向にあるように思います。指導者は牧場主のようなタイプが理想ですね。子どもたちは解き放たれ、のびのびとからだを動かしながら、大切なものを育んでいくでしょう。
竹中 大人が与えて子どもが楽しむというものは、その時だけで終わってしまいますからね。牧場主として、子どもがケガなどをしないようにそれとなく見守っている。そして子どもたちが本当に楽しいんだということを自分たち自身で見つけられれば、状況は変わっていきそうです。
増田 牧場主という表現を使いましたが、なぜそのような考えを持つようになったかというと、駅伝などの上位チームの監督はそのような人たちなのです。深い信頼関係があるからなのでしょうが、管理するのではなく、選手たちを放している。でも、どこかでしっかりと見ている。そのような環境で選手たちは一人ひとり個性を伸ばしながら、いざ集まると素晴らしい結果を出すのです。
水村 埼玉県所沢市のいくつかの学校では、校庭や体育館など学校の施設で、放課後に子どもたちが学習や運動をできるシステムをつくっています。登録制で、年間500円の保険料をいただくだけで、市が委託する地域の方がローテーションで子どもたちを見守っています。何かの指導をするわけではありません。
竹中 そのように地域の人にそれとなく見守られている環境で、からだを動かして友だちと遊ぶというのが、子どものころの私たちに馴染みのあるものです。いまは、たとえば幼稚園が指導者を招いて体操クラブを開く、親もそれに子どもを参加させて安心している、という状況になっていますね。森丘さんの運動会の話ですが、そのような過程を経験しながら集団の力を培っていく機会が失われてきていることを感じます。子どもにもショートカットで結果を求めるので、そこに過程がなく、集団としての力がつきにくい。そのようなことを感じます。
増田 親も先生も焦りすぎているのかもしれませんね。効率を求めすぎるあまり、無駄な時間と思われるものに本当はすごく意味があるのに、それを飛び越えてしまっている現状が見えてくるようです。
竹中 飛び越えてショートカットして、そのときはいいのかもしれませんが、後でつまづくことになる。時間をかけたほうが後々のためになるということがあると思うのですが。
森丘 先ほどの駅伝の指導者に限らず、よい指導者というのは「選手なりにいろいろ考えてやっているのだから少し様子を見よう」と待てる指導者。反対に、気になるとすぐに手を出してしまう指導者もいます。そのほうが、短期的にはよい効果が期待できるかもしれませんが、長い目で見れば必ずしもよい選択とはいえないこともあります。ある著名なスポーツ指導者が、選手が「教わっている」という感覚にならないように教えるのがよい指導者だと話していました。子どもに対しても同様で、いかに「自分が好きで楽しんでいるんだ」と思わせるか。そこに保護者や指導者の働きかけがあって、子どもに「親に言われたから」「指導者に言われたから」と思わせないことが大切だと考えます。
小松 保健室で子どもの相談を受けていて思うのですが、その子が「こうしよう」と自分から思うと、そのように動きます。私たちが「こうしたら、ああしたら」と言っても、子どもは動かないんですよね。
<からだを動かす役割〜社会性を高め、こころを癒す〜>
竹中 スクールカウンセラーに聞いた話ですが、いまの子どもは他人を傷つけることには鈍感だけど、自分が傷つくことにはとても敏感なのだそうです。肥満や不定愁訴などの面だけでなく、こういった社会性という面でも、からだを動かして一緒に遊ぶことの意味合いがあるのではないかと考えています。
増田 スポーツでは、自分が勝ったということは負けた人がいるということなので、負けた人の立場を考える機会があります。チーム・スポーツならば、自分だけでなくみんなの力で成し遂げるものなのだと、理屈でなく、からだで感じることができます。抱き合って喜び合ったり、悔しがったりするものでもあるので、心を育むうえでスポーツは素晴らしい働きをしますね。
小松 理由がわからずにイライラしている子どもたちが多いですね。でも、長い休み時間に外で遊ぶと、「スッキリした!」と笑顔を見せます。
森丘『アクティブ・チャイルド60min.』のトピックでも、窓ガラスが毎週のように割れるほど荒れていた小学校が、休み時間を長くして全教員が外に出て子どもたちと一緒にからだを動かすようにしたところ、そういった行為が収まったというストレス・マネジメントの事例を紹介しています。
増田 内側にたまっているエネルギーを発散させてあげないと、悪いほうに進んでしまうかもしれませんものね。
竹中 ただ、勝利至上主義的なスポーツでは逆にストレスが増してしまいますし、からだを動かすことを罰にしてしまうと、子どもたちにネがティブな印象を与えてしまうので注意が必要です。
<子どもが自発的に動くために何が必要か>
森丘 肝になるのは「遊び」「楽しい」でしょうね。楽しみながらやっていくうちに、実は一生懸命に全力でやることが、さらに楽しさを得るための道すじだと気づくのではないでしょうか。
増田 楽しいプログラムが重要だと思います。子どもたちに「提供されている」と思わせないような遊びプログラムが。
竹中 「お金を儲けるため」「成功するため」など、とかく目的志向ばかりが目につきますが、子どもにとって「やってること自体が楽しい」というものでないと、喜びは感じられませんよね。内容でも工夫が必要ですね。競争でなく、ゲーム感覚でやれるようなもの。
水村 私は以前、「100回褒めるぞ」と心に誓って体育の授業に臨んだことがあります。とても大変でしたが、子どもたちは最後までひたむきに取り組んでいました。あまり体育が得意でない子も積極的にやるようになって、やはり褒められるのは子どもにとって大きな励みなんだなと感じました。
増田 水村さんは小出義雄さんのようですね(笑)。小出さんも練習中、選手達に「いいね!」「最高!」「完璧!」と繰り返し声をかけています。特に子どもは純粋なので、褒められると素直に喜び、のびやかにからだを動かせるのでしょうね。
<生活活動の実践を楽しむ>
竹中 『アクティブ・チャイルド60min.』では、生活活動も推奨しています。エレべーターやエスカレーターではなく階段を使うほうがカッコイイよ、ですとか、電車やバスでは座っていないで、必要な人に席を譲るほうがカッコイイよ、とメッセージを出しています。自分さえよければいいというのではなく、利他的になることも子どもたちに考えてもらえればと思います。
増田 「カッコイイ」という表現を使っているのがいいですね。恩着せがましくないので、気持ちが自然に動くと思います。健康のことにとどまらず、マナーやモラルについても考えられた本です。私は小学校まで2.5kmほど歩いて通学していました。そして、よく忘れ物をして、取りに帰ったものです。当時の先生には、「脚が強くなったのは、忘れ物をしたのがよかった」と言われます。日常の登下校、移動でも体力はつくのです。子どもは元来、からだを動かすことが好きですから、生活の中で汗をかく習慣を楽しんでほしいと思います。
森丘 忙しい朝の時間帯に子どもを保育園に送るとなると、どうしてもクルマや自転車に頼りたくなります。でも、風雨の日などを除いて、なるべく歩いて行くようにしています。途中にマンホールがあると「ジャンプしてみようか」と跳ばせてみたり、特に時間がないときは「速歩きで行こうよ。どれくらい早く行けるかな」と時間を計ったりして「うわ〜新記録だ!」とか言って盛り上げています。
小松 「子育てママ」を特集している雑誌がありました。そのような情報の中で、子どもとからだを動かしている理想的な保護者像がとりあげられて、多くの人が憧れるようになればいいと思います。いずれにしても、この本で紹介されているような子どもの実態や、からだを動かさないことの問題点を知るようになれば、多くの保護者が森丘さんのような働きかけをしていくと思います。
竹中 いまの子どもは将来の大人です。からだを動かす機会を失う一方で、なんらかの仕掛けを入れないことには、健康や社会性など多くの観点での問題が深刻化します。からだを動かすことを厭わない子どもを育てるために、たくさんの情報を集めて、「動機づける」だけでなく、その具体的な中身についても、引き続き多くの人たちと一緒に考えていければと思います。
(2010年4月 アクティブ・チャイルド座談会.pdf 直より抜粋)

繰り返しになりますが、明後日から2月にかけて全国各地で「アクティブ・チャイルド・プログラム講習会」が開催されます。
教材はコチラ →『ガイドブック』『DVD
奮ってご参加下さい!