2020東京オリンピックプロジェクト

moriyasu11232015-01-30

昨年の11月に行われた「U19オリンピック育成競技者指導者研修会」の内容の一部が、陸上競技マガジンにて紹介された。

タレント・トランスファーの充実
昨年、2020年のオリンピックが東京に決まったあと、日本陸連では「2020東京オリンピック特別対策プロジェクトチーム」を発足させた。主導するのは、強化育成部長の山崎一彦氏。
「一歩踏み出そう」をスローガンに、ジュニア年代から長いスパンでの強化を図るのが目的である。「指導者が国際的指導力を付けなくてはいけない」と山崎氏。プロジェクトの第一弾として、例年この時期に国立スポーツ科学センターで実施している「U-19オリンピック育成競技者」の測定合宿と同時に、その選手たちが所属する学校の指導者に向けて、レクチャーや研修を行った。
この規模でジュニア世代の指導者が全国から集まるのは初の試み。参加者は50名以上にのぼり、「招待したほとんどの指導者が参加してくれました」と山崎氏は感謝の言葉を述べた。
初日に公開されたテーマは、『2020年へ向けての活動および強化育成方針の考え方』。山崎氏が壇上に上がり、スクリーンを使って講義を行った。東京オリンピックでの目標として、「金メダル1、メダル総数5、入賞者数7」を掲げ、プレイシングテーブル(インターハイの学校対抗のように順位による点数化)10位以内を目指すという。ただ、「厳しいことは分かっていますし、これは夢です」と山崎氏。それに向かっての強化対策を行っていく。
現在、陸上界の課題とされている問題点の多くは、1960年ローマ五輪後に大島鎌吉氏(選手強化対策本部長)が発表した敗因と変わっていないという。
例えば、「科学研究と現場の結び付きの弱さ」「選手育成の一貫性・計画性に欠ける」「指導者の人数・指導力が十分でない」ことが挙げられていた。その後の1964年東京オリンピックを機に、実業団システムや少年団チームの構築など、一定の強化体制は整った。だが、自立型競技者を推奨することと引き換えに、ハイパフォーマンスコーチの不足が浮き彫りになり、国際大会での最後の詰めが甘くなる傾向にあると山崎氏は指摘する。
「タレントは発掘するのではなく、拡充・育成していきたい」と山崎氏。つまり、発掘といういわゆる“宝探し”ではなく、まずはプールの拡大、そして全員がタレントだと認識し、そのなかから育成していくための環境(タレント・トランスファー)が大切だということだ。
そのために、
Change(育成):指導者育成、情報発信、指導力の向上
Challenge(発掘):他種目への挑戦、タレントマネージャーの設置など
Contact(普及):プロモーション、かけっこ教室、強化委員会との連携など
を進めていくという。
山崎氏は研修で何度も「国際的な選手・指導者を」と話ししている。2010年から強化育成部(U-19、23)が継続して取り組んでいるのが海外合宿や海外競技会への転機の支援だ。リオ五輪育成競技者のなかからも山本聖途トヨタ自動車)、戸辺直人(千葉陸協)、新井涼平スズキ浜松AC)らがダイヤモンド・リーグに参戦した。
また、桐生祥秀東洋大)や加藤修也(早大)らはオーストラリアで合宿を実施。現地のスーパーマーケットで食材を買って自炊し、現地のチームで練習を積んだ。若年層から海外での試合・生活を行うことで、シニアに移行し世界大会に出場したとしても気後れすることはない。山崎氏は「今後も継続し、よりたくさんの海外経験を積んでもらいたい」と、一層の支援を約束した。
タレントマネージャーの設置 タレント育成の課題とは?
今回、新プロジェクトには「タレントマネージャー」が新設された。日本陸連が依頼した指導者が全都道府県におり、現在それほど全国区で活躍していなくても将来性が見込まれる選手を推薦するというもの。タレントマネージャーで推薦された選手たちも、積極性に海外進出させる方針だ。「将来性を見ることは、一番難しいことなのは理解しています。やみくもに連れてくるわけにはいきません」と山崎氏。
スムーズなタレント育成のためには、もちろん課題もある。1つは、所属チーム指導者、中高体連、学連らとの協力体制だ。ハードルや投てきの規格の違いや学校対抗戦の存在もあり、国際大会と並行できない現状もある。だが、山崎氏は東京五輪決定が良い影響を及ぼしていると言い、「敦賀高の北川貴理選手のように、世界ジュニア帰国後、即インターハイ優勝などの例もあります。今年は世界大会にたくさんの選手が出てくれました。今回集まっていただいた指導者陣にも理解していただいているのだと思います。今後も、連携をより密にしていきたい」と述べた。
次に、これまであまり分析されてこなかった部分のデータ化を進めなくてはいけないという点。それが、2日目に「2020東京オリンピック特別対策プロジェクトチーム」のタレント・トランスファー担当リーダーである、日本体育協会の森丘保典氏が行った「タレント・トランスファーの考え方について」の講義だ。
「これまで、『中学のトップ選手が大人になったら活躍できない、短距離は才能で長距離は努力』などといわれてきたが、本当にそうなのか。それを、アンケート、インタビュー調査、日本と世界とのデータ解析などで分析していきます」と山崎氏は言う。
森丘氏が紹介した、2012年の小学生陸上、全日中、インターハイ、インカレ、日本選手権の各大会出場者、および世界大会出場者の生まれ月の分布を見ると、全日中くらいまでは早生まれ(1月〜3月)の選手の割合は少なく、インターハイレベルでもその影響が残る傾向にあることが分かる。だが、代表選手にはほとんどその差は見られなくなるという。
また、現在50歳以下の世界大会出場者の104人に実施したアンケート結果を分析すると、中学時代に陸上を始めた選手は8割いるものの、6割が全国大会に出場していないこと、そして、高校から専門的に陸上を開始した選手が約3割いることが分かった。高校になると、8割が全国大会に出場しており、6割が入賞していることなども示していた。
「発育・発達の差が大きい小学校、中学校年代に自己効力感(自身の向上可能性への期待感や信頼感、有能感)を得ることができず、競技をやめている選手も少なくないのではないか」と森丘氏は指摘。競技変更などもあるため単純な比較はできないが、中学生の競技人口が約20万人でありながら、高校になると半数の10万人に減少している現状とも無関係ではないだろう。
一方で、早期に高いレベルに到達したいわゆる“早熟型”の選手のドロップアウトにも配慮する必要があると強調し、「調査結果を踏まえ、すべてのジュニア層がタレント候補であるという認識を共有してプールを拡充し、育成環境を充実させていくことが大切」だと述べた。
また、海外選手との比較も紹介。400mHの選手においては、海外選手はピーク・パフォーマンスに到達する年齢が日本人選手(約24歳)よりも2年ほど遅い(約26歳)ことや、「海外の選手は、ジュニア期まで400mHを走らず、20代で転向することも少なくない」と話し、種目選択のタイミングやジュニア種目の負荷(距離)設定などの工夫も課題に挙げていた。
「今後も年に1回は開催し、情報共有をしていきたい」と山崎氏は総括した。
より明確化されたジュニア世代からシニアに向けたタレント育成の道筋。まだまだ課題は残されているが、2020年の東京、そしてその先に向けた強化体制に今後も注目したい。
(2014年12月13日 陸上競技マガジン『U-19オリンピック育成競技者指導者研修会を初開催(by向永拓史氏)』より抜粋)

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