オリジナリティーとは?

moriyasu11232014-12-17

一般社団法人日本体育学会は、体育・スポーツ科学研究領域における国内最大の学術研究団体であるが、現在この学会の会長は大学院時代のボスがお務めになっている。

ごあいさつ
日本体育学会会長 阿江 通良

日本体育学会のホームページ(HP)がリニューアルされました。本学会のHPは、これまでもかなり充実しており、特に日本の体育・スポーツに関する学術面でリードしてきた「体育学研究」と国際誌である「International Journal of Sport and Health Sciences」の論文検索が容易にできることは内外の多くの研究者から好評を得ています。
「体育」は狭義と広義にとらえることができます。後者の場合には、身体を中心におきながら、身体(的)活動・運動やスポーツを介して身心の能力の向上・維持・低下の防止を図る営みであり、体育学は体育・スポーツ現象を科学的に裏付けるとともに、研究から得られた知見を実践に応用することをねらいとしています。
また体育・スポーツ、特にスポーツは楽しみを(ときには苦しみも)人々にもたらすことは承知の通りですが、最近では、人々に感動や勇気、生きる喜びを与えるなど、計り知れない力を持っていることが社会的にも強く認識されるようになりました。このようなとき、2020年に東京でオリンピック・パラリンピック大会(東京OP)が開催されることになりました。このことは、本学会と会員が2020年に向かってはもちろんですが、それ以上に東京OP後にも日本独自の体育・スポーツがもつ価値を、理論と実践の両面で世界に発信し続ける大きな役割を担うことになったことを意味しています。そのためには、本来の科学研究の遂行、人材育成に加え、世界との交流をさらに深める必要があります。
新ホームページが、本来の体育学に関する科学研究の推進と学術水準の向上をサポートするとともに、幅広い会員の交流の場、世界や社会への窓口になることを期待します。
(日本体育学会ホームページ(トップページ)より抜粋)

小生は現在、上記でも触れられている「体育学研究 」の編集委員会の末席を汚している。
若かりし頃(今も若いけど)、このジャーナルに初めて拙稿が掲載されたときの喜びは今も忘れられないが、このたび菊幸一編集委員長のご推薦により、編集後記の執筆という栄に浴することとなった。
思えば遠くへ来たもんだ(遠い目)。
というわけで、拙稿を(先走り)再掲する。

1950年2月、日本体育学会は、新制大学発足に伴う正課体育必修化の流れを受け、体育に関係する諸科学の研究者の英知を結集することを目的として誕生しました。本誌創刊号(第1巻1号)に掲載された第1回学会大会の抄録タイトルには、体育哲学・思想、遊戯、スポーツ、社会体育、健康意識、精神的練習、運動学習、運動技能、体力、エクササイズ、トレーニング、エネルギー代謝、スポーツ傷害などのキーワードが散見されますが、これらは今日においてもなお「体育学」の研究における中心的なテーマであり、その学問的射程を網羅的に示しているといえます。
この創刊号の序文は、『この度わが体育も、他の科学と同様に、大学で研究されることになり、その上、全日本的な機構の下に立派な体育学会をもつことができて、お陰でこれまでわが体育が背負わされていたハンディキャップの一つは除かれたのであります。いま一つの大きな時間的なハンディーを縮めるためには、長期に亘る不断の努力を必要とするわけで、それは、問学諸賢の真摯な研究をもってはじめて可能となるものであると信じます。』(大谷武一理事長)と結ばれています。
大谷理事長の期待は、「体育学」を志す研究者の「長期に亘る不断の努力(真摯な研究)」による「オリジナリティー(originality)」創出にあったのではないでしょうか。
オリジナリティーという言葉は、「独創性・創意」などの意味で用いられることも多いですが、そもそも「origin」とは「原点・起源」を意味する言葉であり、社会的空間や歴史的時間から切り離された独創性などあり得ません。
本誌は、創刊以来60年以上にもおよぶ歴史の中で、本号掲載分を含む1381編の「原著論文(Original article)」を世に送り出してきました。この地層のように積み重ねられてきた研究の履歴(レガシー)に真摯に向き合い、これらを「故きを温ねて新しきを知る(温故知新)」という広義の科学的態度によって継承していくことによってのみ、「体育学」の専門的・方法論的なオリジナリティー(独自性)を見出すことが可能になるといえるでしょう。
本誌には、温故と知新の循環と積み重ねによって質の高いエビデンスを生み出す、という学術的機能を豊かに発揮しているかが問われていることを肝に銘じておきたいと思います。
(2014年12月1日 拙稿「編集後記」体育学研究59巻2号より)

今年も残すところあと僅か。
なかなか更新もままなりませんが、来年もご笑覧のほどよろしくお願いします。m(__)m
冬来たりなば春遠からじ。
よいお年をお迎えください。