学力格差はつながり格差!?

moriyasu11232009-11-24

『全国学力テスト:人のきずなで成績↑ 離婚、持ち家が左右』
07年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)と1964年の全国テストを社会環境を加えて分析したところ、学力を左右する要因として離婚率▽持ち家率▽不登校率−−の3指標の比重が高まっていることが、大阪大などの研究グループの調査で分かった。いずれも家庭、地域、学校での人間関係の緊密さに関連する指標で、研究チームは「年収など経済的要因よりも、人間関係の『つながり格差』が学力を左右する傾向にある」と指摘。子どもの生活基盤を支える指導の重要性を再認識させる結果として、注目を集めそうだ。
大阪大大学院人間科学研究科の志水宏吉教授(教育学)の研究室が、両テストの小学6年と中学3年の国語・算数(数学)の都道府県別正答率と、国勢調査など統計データを分析。年収などの指標ごとに学力に影響する度合いの強さ(相関係数)を比較した。
それによると、離婚率と学力の相関係数(上昇するほど1に近づく)は64年から07年に0.102から0.536(小6算数)に上昇。持ち家率も0.070から0.444(同)と強まった。不登校率も同様だった。これに対し、教育娯楽費割合が0.566から0.134(中3数学)となるなど経済的な豊かさにかかわる指標は影響が小さくなる傾向が出た。
両テストの都道府県別順位は、07年最上位の秋田県が43位から躍進、大阪府は6位から最下位近くに陥落している。研究グループは大阪では離婚率の高さや持ち家率の低さが、結果的に親や祖父母、近所との接触機会を少なくしていると評価。学力低迷の要因として、社会環境が子どもの生活や意識を不安定化させているとみる。40年余りで各地の経済力格差が縮小、一方で子どもの環境の変化が大阪で顕著に現れたと分析している。
志水教授は「家庭や地域のつながりが緊密に残った場所ほど学力が高く、都市化が進んだ大阪で『しんどい学校』が増えた。子どもと保護者や先生の信頼感、地域の支えなど、つながりの回復が打開策になる」と話している。【竹島一登、福田隆】
(2009年11月17日 毎日新聞

「学力格差」は「経済格差」である、と言われて久しい。
「教育投資額」が「学力の高低」を決める、というロジックである。
社会学者の宮台真司氏は、バブル崩壊後の約20年間、日本社会は「すべては金の問題」という拝金主義的リアリズムに振り回されてきたが、このようなリアリズムが「経済回って社会回らず」の「ヒドイ社会」化に棹さしたと喝破する。
山一証券北海道拓殖銀行が倒産した1997年以降の経済沈下を境に、それまで年間2万人台半ばであった自殺者数が3万人以上に跳ね上がり、以降自殺率は先進国でぶっちぎりの第1位(英国の3倍、米国の2倍)。
個人当たりのGDPが世界2〜3位であった2000年代初頭でさえ突出した第1位だったことを考えれば、単に経済の沈下だけが理由とは言えないという。
また、就業時間は、ヨーロッパが約1400時間、アメリカが1700時間台であるのに対して、日本はサービス残業を除いて1900時間台(サービス残業を含めると約2200時間)。
欧米に比べて1日に3時間も長い仕事時間が、家族や地域社会への参加契機を減少させ、社会成員による相互扶助の希薄化と社会的孤立を促進していることから、目指されるべき改善は「経済を回す」ための時間を減らしてでも「社会を回す」ための時間を増やすことにある、という指摘である。

阪大の報告は、学力格差が「学習意欲(インセンティヴ)」の格差であり、それは家庭(親族)・地域・学校という「場」への定着度に相関すると読むことができる。
このことは、すでに90年代初頭から苅谷剛彦氏をはじめとする教育社会学者によって再三指摘され続けてきたことであるとともに、先の宮台氏の指摘にも大いに関わる問題であるといって差し支えないだろう。
塚原卜伝の道場に、弟子入り志願の若者が訪れたときのエピソードがある。
かなりの修行を積んで満を持してやってきた若者は、試し合いを見ていた卜伝も思わず唸るほどの実力の持ち主であった。

卜伝:お前は筋がいいから、5年も修行すれば免許皆伝になれるかも知れんぞ。
若者:それでは、寝食も忘れて修行に打ち込んだとしたら、何年くらいで免許皆伝になれるのでしょうか。
卜伝:寝食を忘れてやるなら十年はかかる(苦笑)。
若者:では、全てを擲って、死にもの狂いで修行に励めばどうでしょうか。
卜伝:それでは、お前は一生免許皆伝にはなれぬ。その道理がわかるまで入門は許さん(怒)。

卜伝は、「免許皆伝」が、修行の「量」に相関するであろう「剣術の巧拙」だけにではなく、限りなくその「質」を高めることを目指して人間的な「成熟」を果たした「身体」に与えられるものであることを示唆している。
「轡や手綱の類をつくるのは馬術のためであり、馬術は兵法のためにあり、かくてより高い目的へと向かう…」というアリストテレスの言を引くまでもなく、どのような「実践」も、より高い「目的」のためにあり、その目的はさらに高次の目的のために存在しており…究極の「実践」は「ただそれをするためだけにする」という「目的」をなす。
いみじくも「学ぶ力」と書く真の「学力」は、知識・情報の量や受験テクニックと称されるスキルに相関するであろう「テストの点数」にではなく、「学びたい」という「内発的欲求」が宿った「成熟した身体」にのみ与えられるものである、と敷衍してみたくなる。
今回の調査結果は、「学力」の本来的な意味を取り違えている我々の社会(教育)に対する警鐘として甘受すべきものと言えるのかもしれない。

『読解力・数学力・IT能力、大人の学力を国際調査』
経済協力開発機構OECD)は、これまでデータがほとんどない、「成人が社会で必要とされる能力」を測る初の世界的調査「国際成人力調査(PIAAC=ピアック)」を2011年に実施する。
日本も、文部科学省国立教育政策研究所が主体となり調査に参加し、「日本の大人の学力」の把握と国際比較に乗り出す。結果は13年に世界同時公表される見込み。
OECDでは、世界の15歳を対象にした「国際学習到達度調査(PISA)」を実施しているが、ピアックは、この大人版となる。PISAでは日本の子どもの学力低下論議を呼んだだけに、大きな関心を集めそうだ。
ピアックには、日本、アメリカ、イギリス、フランス、フィンランド、韓国など計25か国が参加。16〜65歳を「成人」とし、各国で無作為に抽出された男女5000人に調査員が直接面接、パソコンを使って出題する。
同研究所によると、問題は「読解力」「数学力」「ITを活用した問題解決能力」の3項目。例えば、「読解力」や「数学力」では、世界の気温変化が示された図の情報を分析するなど、文章や図表から情報を理解し、活用する力などを測るという。
一方、IT能力調査では、例えば「ウェブ上の情報を確認して自分のスケジュールを調整し、メールする」といった指示を受け、調査のため独自に作成されたメールソフトなどを使って「回答」する。
ほかに、学歴、職歴、収入のほか、職場で求められている技能の内容、新聞・雑誌、学術論文を読む頻度なども選択式で回答してもらう。
OECDでは、これらの結果を分析して、成人に必要な「社会対応能力」を特定。〈1〉各国の成人が持つ能力〈2〉個人の能力と社会的な成功、経済成長との関係〈3〉教育や職業訓練制度の効果――を把握し、有効な政策につなげることを狙う。
10年に予備調査、11年夏に本調査を行い、結果公表は13年9月になる見通し。
同研究所は「これまでデータがなかった成人の能力、スキルが把握できるので、大きな意義がある。世代間の能力差など、教育を考えていく上でも貴重なデータとなる」としている。
PISA=義務教育修了段階の15歳を対象に、学習到達度を測る国際調査。知識や技能を実生活に生かせるかを評価する。日本は前回06年の調査で「科学的応用力」が前々回の2位から6位、「数学的応用力」も6位から10位、読解力も14位から15位に下がるなど、「PISAショック」と呼ばれる衝撃が教育界に広がった。
(2009年11月18日 読売新聞)

「子どもの学力低下」に嘆息し、様々な施策や事業を展開してきた我々「大人の学力」は、果たしていかほどのものなのか。
可能であれば、歴代首相や閣僚ほか、政財界のお歴々にも是非受けてもらいたいテストである。
まず「隗より始めよ(by郭隗)」である(オレもか…)。