五輪招致再び!?

moriyasu11232009-11-15

今月9日、東京都の石原都知事は、2020年夏季五輪に「私の責任でアプライ(立候補)する」ことを表明した。
これを受けて、新聞各社は、産経新聞毎日新聞を中心にネットに追っかけ記事を掲載している。
記事を斜め読みすると、その内容は以下のポイントに絞られる。

<主な動向>

  • JOCは9日の常務理事会で、「五輪招致戦略室」を設置する方針を固めた。16年五輪招致の敗因分析や20年五輪招致にJOCが乗り出すかどうかを検討するとともに、国内候補都市の選定方法についても骨格を決める新組織。17日の理事会で正式に決定する。竹田会長の直轄する諮問機関で、国際情勢に明るいJOC理事4人で構成。水野正人JOC副会長が室長を務める。
  • 石原都知事は10日、福田富昭JOC副会長、2016年夏季五輪招致委員会事務総長の河野一郎JOC理事に20年夏季五輪の招致に名乗りを上げる考えを伝えた。石原知事は会談後、「いろいろなレガシー(遺産)がある。それをNPOに残して『とにかく次、やろう』といった。そのためにもJOCを相当強化しないといけない。(今回の招致活動では)機能したとは言えない。」と語った。
  • 都議会民主党は、招致経費の使途の実態を解明する「オリンピック招致検証ワーキングチーム」を設置し、13日に初会合を開いた。民主党はイベントに出演したスポーツ選手への出演料が高額だと指摘したり、大手広告代理店への委託契約がほとんど随意契約だったことを問題視している。

<再立候補に関するポイント>

  • 今後のタイムスケジュールを考えれば、この時期に再挑戦の意向を固めておかないと間に合わない。
  • 16年東京五輪の「環境」を軸にした開催計画は、IOCから高評価を得ていたが、リオデジャネイロの「南米初」という大義に負けた。「環境」に加え、日本の過去の戦争体験の傷跡に触れた「平和」のメッセージを提示したが、IOC委員を突き動かすほどのインパクトがなかった。
  • 招致が実現すれば、マラソンなど一部競技を広島市で実施するという共催の可能性も模索する(ちなみに長崎は入っていない)。被爆国の日本がその象徴的都市である広島と一緒にやるのはIOCの掲げる理念にかなう。
  • 広島、長崎の両市には、五輪憲章が求める基準がどれだけ高いかなど、招致の現実を分かっていないとの厳しい見方もある。JOCが期限とする年内に、両市は共催か一部競技の分離開催かの具体案を示す必要に迫られている。

<広島・長崎両市長の反応>

  • 秋葉忠利広島市長:広島・長崎を中心に複数都市による共同開催の実現可能性について検討を進めたいと考えている。
  • 田上富久・長崎市長:(東京の)再挑戦は当然ありうると思っていたが、広島・長崎で(招致を)するところに大きな意味があるので、被爆都市共催が崩れることは基本的にないと思っている。こちらは本当にゼロからの検討なので、いろんなパターンを考えることになる。(東京との一部共催について)絶対ないとは言えない。

<都関係者の反応>

  • 都幹部:事務方で事前に知らされていた者はまずいないのではないか。まだ何の指示も来ていない。知事自身、『都民の意見を斟酌(しんしゃく)して決める』と述べており、都の五輪招致本部も年度一杯で解散という動きだった。まだ今回の報告書ができていないのに、次への立候補表明は唐突だ。
  • 川井重勇自民党都議会幹事長:石原都知事も再挑戦するか否かで揺れ動いていたのだろう。個人的に気持ちは分かる。他国の開催都市も2度、3度の挑戦で開催に至った。招致に協力した他の自治体のためにも1度であきらめるわけにはいかない。ただ事前の相談はなく、検証を行っていない段階で会派として『支持する』とはいえない。
  • 吉野利明・五輪招致特別委員会委員長(自民党都議):個人的にはぜひ挑戦してほしい。予算にしてもゼロからの出発だった前回より圧縮できる可能性もある。次期知事選の大きな争点の一つになるだろうが、目下は議会の同意形成が得られるか。12月定例議会で当然議論になる。民主党が会派としてどう動くか予測できない。
  • 大沢昇民主党都議会幹事長:唐突だ。立候補の期限があるとはいえ、前回招致の総括が終わっていない段階で次にいくのは違和感を覚える。

JOC関係者の反応>

  • 竹田恒和・会長:(石原都知事の宣言を)JOCとして歓迎したい。3年間、計画を練って(国際的に)評価も得た東京の実績は立派なもの。そういうアドバンテージはある。
  • 福田富昭・副会長:本当によかった。今後はJOCが国内選定でしっかりと運営しないといけない。
  • 水野正人・副会長:最近の五輪招致は複数回の挑戦が一般化している。東京の再挑戦は一番自然な形。JOCとして公正、公平に判断していきたい。
  • 市原則之・専務理事:(広島・長崎による複数都市開催は)五輪憲章に適合していない。(計画案が)出てきた時はJOCでカットする場合もあるが、生かしたい部分をJOC内で調整し、こういう形はいかがでしょうかと話をすることもある。世界のトップアスリートが最高のパフォーマンスを発揮できることが第一。

毎日新聞運動部記者の滝口隆司氏は、石原都知事の再挑戦宣言について「無責任きわまりない」と断じているが、特に以下のサイドラインが目を引いた。

さらに不思議なのは、「広島との共催」を持ち出したことだ。知事は「共催」という言葉を使っているが、一部競技の広島開催を想定しているは明らかだ。「共催」という言葉で広島の出方を伺っているのだろう。
しかし、だ。16年招致の時、民主党都議団が広島・長崎での一部開催を提案したところ、東京招致委員会はその案を一蹴したのではないか。「イベントならともかく、五輪憲章の規定で競技は開催できない」というのが、招致委の言い分だった。それが今になって「広島と共催」とは何だろう。今年の都議選で与党となった民主党を納得させるためか。「被爆国の日本が、象徴的な都市と一緒にやるのは、IOCの理念にかなっている」(石原知事)とはよくも言ったものだと思う。
(2009年11月10日 スポーツアドバンテージより)

民主党都議団が「広島・長崎での一部開催」を提案し、それを招致委員会(石原委員長)が一蹴していたという事実は寡聞にして知らなかったが、このくだりを読んで、広島・長崎が描いているシナリオが想起された。

先のエントリーにも展開したように、五輪開催の大義という意味において広島・長崎にまさる場所のないことは言を俟たない。しかし、開催には多くの難問が横たわっており、実現にこぎ着けるにはかなりの困難を伴う。
東京の力を利用しなければ、広島・長崎の計画も画餅に終わる可能性が高い。
そこで招致活動は東京にさせつつ、「マラソン」など注目度の高い一部種目の広島・長崎開催を「落としどころ」にするというシナリオである。
このシナリオは、まず東京敗北を見届けた翌日の唐突な「招致宣言」によって、メディアを利用した国民的議論を巻き起こすことに始まる。
メディアは「広島・長崎に開催能力があるのか?」といった視点を持ちつつも、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞も追い風となり、東京に比べれば「大義」があると概ね好意的に報道する。
無論、市議会や各種団体等の反対は織り込み済みである。
その裏には、「石原都知事の性格を考えれば、東京は必ずもう一度手を挙げるだろうし、JOCもそれを支持するに違いない」という読みがあった。
果たして、展開はその読み通りのものとなる。
現在、都議会では招致活動の「総括」が行われており、再挑戦への道のりは決して平坦ではないが、仮に20年招致にこぎ着けられれば都知事や招致委員会の面目も保たれる。
広島・長崎は、都議会の動向を見守りながら、いずれ石原都知事への援護射撃を行うに違いない。
東京に欠けていたと言われる「理念」と、広島・長崎の弱点と言われる「開催能力」「財政基盤」という互いの弱みを補完することにより、「核廃絶メッセージ発信」という「利」を得るという、極めて戦略性の高い「仕掛け」である。
(この内容は全てフィクション(想像)です…念のため)

ちなみに、広島で行われるマラソンでは、負の世界遺産と呼ばれている「原爆ドーム」を30〜35キロ地点に配するコース設定になるだろう、というのが九州本部氏の読みである。
12月の定例都議会と、その動向に何らかの反応を見せるであろう広島・長崎の動向に注目していきたい。
ともあれ、2016年東京招致の「レガシー」を云々する以前に、まずは国立霞ヶ丘競技場の正門を「レガシー」として再生させることが先決ではなかろうか(聖火台の掃除は済んでいることだし…)。