20年目のB'z

moriyasu11232009-01-21

昨年末に再放映された「NHKスペシャル メガヒットの秘密 〜20年目のB'z〜」の録画を観る。
B'zに特段の思い入れはない(CDも持ってない)。
若かりし頃に、時々カラオケで歌った程度である(いまは歌えない)。
しかし、メデイア露出の少ないモンスターバンドへの密着取材ということで、ミュージシャンの端くれ?としての血が騒ぎ、思わず録画予約してしまった。
改めて説明するまでもないが、B'zとは、ギターの松本孝弘(47歳)とボーカルの稲葉浩志(41歳)の二人組アーティストである(稲葉さん2歳年上か…)。
彼らは、日本で一番CDが売れているらしい。
なにしろ、1988年のデビューから20年間で、シングル、アルバムの売り上げ総数は7800万枚というから驚く。これは、2位に2000万枚の大差をつけた段違いのセールスであり、単純計算で毎日1万枚のCDが売れていることになる。
この売り上げや米国ライブの成功が評価され、2007年9月にはアジア圏のミュージシャンとしては初のハリウッド・ロックウォークへの殿堂入りも果たしている。
松本の存在は、B'zがデビューする前から知っていた。
高校時代、バンド仲間と茶(酒?)飲み話をしていたとき、私よりも数十倍ギターが上手かった友人がリストアップした「上手い邦人ギタリスト」のなかに「松本孝弘」の名前があった。
聞けば、スタジオミュージシャンとして活躍中とのことで、ギターだけでなくアレンジもかなりイケてるとのことだった(浜田麻里のテープを借りた記憶がある)。
「ふ〜ん」と聞き流しつつも、名前だけはインプットされていたのだろう。「BAD COMMUNICATION」が売れて、B'zの存在を初めてメディアで知ったとき、「ギター松本孝弘」と聞いてすぐに「あの松本だ」と直観した。
デビュー当時のB'zは、バックがオケだった(二人しかいないので当然だが…)。当時はバンドブームまっただ中で、「(二人というのは)時代に逆行するスタイルだったが、バックがいないことでジャンルの幅が拡がるというメリットがあった」と松本は言う。
なるほど、わがままなバックミュージシャンを抱えるよりも、二人の方が軽快かつ柔軟に創作活動にいそしめるというのは、バンドをかじった?ことのある身としては何となく理解できる。
B'zは、基本的に松本が作曲、稲葉が作詞担当で、他者からの楽曲提供はほとんどない。
ギターが曲を作り、ボーカルが詞を書く…これ以上わかりやすく伝わりやすいメッセージはあるまい。
驚いたのは、稲葉の自己管理の徹底ぶりである。
ミュージシャンとは思えないほど(失礼)屈強な肉体でジョギングに繰り出したかと思えば、リハーサルではマイクの前に加湿器を4台据え、部屋の湿度を常に50%以上に維持するためドアに目張りをしてエアコンの冷気を遮断し、吸入器で1日5回もの吸入を行い、休憩時には喉に良いというハーブティを飲み、ツアー中は身体のケアのために専属トレーナーをつけ、胃腸に気を遣い夏でも鍋を食べ、飲み物には氷も入れないなどなど…
松本は、「(稲葉を)一言でいえばストイック。普通の努力ではできない。B'zのボーカルとしての自覚がすごい」と語っていたが、スポーツの世界にも稲葉に匹敵するくらい、いやそれ以上に身体に気を遣っているトップアスリートが少なからずいる。
陸連ハードル部長氏の現役時代などは、例えば一緒に食事に行っても「そこまでやるか…」というくらいの気の遣いようだった。
そういう姿をみて、ふと思ったことがある。
それは「行為だけを真似てもあまり意味がない」ということだ。
いみじくも稲葉が「ホントは(吸入は)3回とかでもいいんでしょうけど…」とつぶやいていたように、これらのストイックな行為は、やればやるほど効果が上がるというものでは恐らくない。
しかし、ストイックな芸術家たちは、一般の基準を遙かに超えたところに「自分の基準」を設ける。それは、危機回避という本来の目的を超えた、いい意味での自己暗示や陶酔のレベルにまで高められているのである。
したがって、その行為の効果や是非を論じることには、あまり意味がないのである。
二人の創作過程も興味深いものだった。
そのコンセプトは「まずは思うとおりにやろう(松本)」というものだ。
はじめから何かを制限することなく、まずは各々の想いを素直に表現していく。「さすがにこれはねーだろ」と感じるものについても、いったん自分の価値判断を括弧に入れつつ、最適解を模索していく。
まさに「エポケー(byフッサールほか)」である。
実際に、それが功を奏してヒットに繋がることも多々あるという。
稲葉は言う。
「自分を抑えて、周囲の人に合わせてみることによる発見がある。誤解を恐れずに言えば、最終的な楽曲は100%の自己表現ではない。(…)アーティストとかミュージシャンという意識は自分にはない。B'zのシンガーである、ただそれだけだ」と。
多くの人に想い(自己表現)を届けるためには、それを抑えなければならない。多くのアーティストは、このパラドクスに引き裂かれながら「自己表現とは何か?」を自問し続けているはずである。
「自己」は「他者」との関わりの中でしか発見できない。
対照的だったのは、松本が、たった4小節のギターソロに納得するまで半年近くもかけるなど、“表現者”としてのこだわりを示した一幕である。
番組の冒頭、「なぜB'zは売れるのか?」という問いに対して、松本は「これならいけるという感覚的なものがある」、稲葉は「手を抜いていないこと」と答えていた。
これらのことは、二人の性格の違いやB'zにおける役割分担を象徴している。この見事なまでの「分担」や「二人」という人数が、解散の噂ひとつたたずに20年間もその関係を継続できた理由なのかもしれない。
「成功とは何か?」という問いに対して、稲葉は「ヒットや名声ではなく自己満足、精一杯やっているという感覚が持てるかどうか」、松本は「(音楽に対する)思い込みの違い。ギターが好きという気持ちが原動力。それしかやれることがない。」と答えていた。
売れたい、有名になりたいというのが、ミュージシャンの精進を駆動する重要な動機づけであることは疑うべくもない。しかし「好きこそものの上手なれ」という内発的動機づけなくしては、音楽を継続していくことができないのもまた事実である。
これは、スポーツや芸術のような「文化」と呼ばれる活動に共通するものといえるだろう。
小室哲哉は、ひょっとすると音楽が嫌いになって(なりかけて)いたのかも知れない。
番組は、デビューからちょうど20年後の昨年9月21日に行われた20周年記念コンサートのカーテンコールでエンディングを迎える。
稲葉は、コンサートを、そして番組をこう締めくくった。
「いっぱい勉強して、いっぱい練習してまた戻ってきます!ありがとう!」
彼らの曲がヒットする理由が、少しだけ分かったような気がする。