言いまつがい

moriyasu11232008-02-15

糸井重里氏サイトの「言いまつがいコーナー」で最近キタのは、「ジャックダニエルをロックで」を間違えて「ジャックをダニエルで」とオーダーしたというもの。
九州本部氏は、「わざと」こういう間違いをするのがたいへんに上手い。

14日放送のテレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」で、メーンキャスター、古舘伊知郎氏が前日のニュースの中で「アダルトチルドレン」という言葉を誤って用い、関係者を傷つけたと謝罪した。
古舘氏の説明によると、問題の発言をしたのは、13日放送の「18歳は成人か」というニュース。古舘氏は「大人になりきれていない子供」という意味で「アダルトチルドレン」を使った。しかし、アダルトチルドレンは一般的に、アルコール依存症の親に育てられるなど機能不全家庭で育ち、成人になってもそうした体験が心的外傷として残っている人を指す言葉。古舘氏は14日の同番組の最後に、「本当に苦しんでいる人に申し訳ない。以後気をつけたい」と神妙な面持ちで謝罪した。
報道ステーション」は、日本マクドナルドの調理日改竄(かいざん)をめぐる報道で過剰な演出があったとして、放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会が今月4日、反省を求める意見書を出したばかり。
(2008年2月15日 産経新聞

関係者の傷つき度合いは知る由もないが、言葉を扱うことを職業とする人間としては、あまりにもお粗末だというよりほかない(わざとでもないみたいだし)。
テレ朝は、少し前にも過剰演出報道(すでに辞めている元店員女性のインタビューで制服を着させたとか)について、番組中にフルタチ氏が「混乱と誤解を与える間違ったやり方だった」と謝罪したばかり。
今回は、公共の電波を使って自らの尻を拭く羽目になった。
過剰演出は、「制服姿は真実味を増す」「私服では映像的に弱い」というスタッフの判断によるものらしい。
「分かりやすい番組づくりを…」というのが彼らの常套句であるが、着衣偽装なんてつまんないことしちゃったおかげで、番組がそもそも伝えようとした「調理日改竄」という問題(別にたいした問題じゃないけど)がとんじゃっただけでなく、番組そのものへの信頼(ほとんどないけど)をも損なった。
内田樹氏は、長年愛読?していた朝日新聞を止めた理由について「イデオロギッシュな語り口が気に入らなかったから」とおっしゃっていた。
実は同じような匂いを、私はずいぶん前から彼に感じていた(同じ会社だから当たり前か)。
要するに「疳に障る」のである。
内田氏が好んで引くレヴィナスの言葉に「哲学の本務は、難問に回答することではなく、難問の下にアンダーラインを引くことである」というのがある。
これはかなりキタ(もちろんアンダーライン)。
畢竟、メディアのマナーも同じではなかろうか。
我々が直面する「問い」には、いくつかのカテゴリーがある。
おおむねそれは「資料が整っていて合理的に推論すれば回答できるもの」「材料が揃っていても軽々には回答できないもの」「おそらく人間には回答できないもの」の3つに分類される。
少なくともメディアは、それを三色ボールペンでアンダーラインを引き分けるくらいの節度を持たなくてはならないだろう(少なくとも私はやっている)。
フルタチ氏は、もともと「過激実況」で人気を博した御仁なので、少々の言い間違いは織り込み済みだ。
今回の件も、聞き流すことを前提としたプロレスや筋肉番付の実況と報道番組との間にあるちょっとした溝(があるのかも分からないが)を埋められなかったという程度の事に過ぎないのかも知れない。
しかし、自分の知力の限界についてクールかつリアルに自己評価できない人間(メディア)や、自分の誤謬を他人に指摘されるより先に発見することに知的リソースを割けない人(メディア)の「言葉」を無条件に聞き続ける習慣は、私にはない(だからみていない)。
だが、メディアだけに責任をなすりつける訳にもいかない。
そういうメディアを生み出している元凶は、チープな分かりやすさやシンプルな答えを求め、メディアの垂れ流す情報を咀嚼することなくただ受け入れている、他ならぬ我々であるということも肝に銘じる必要があるだろう。
ともあれ、まずはテレビを観ないことから始めてはどうだろうか。