セメンヤ1分台と男子800m世界記録

moriyasu11232010-08-23

超満員の観客席とブルートラックのコントラストが、とっても鮮やかである。
さすがに「陸上競技」が、常に「好きなスポーツ」の上位にランクされる国だけのことはある。
恐るべし「Bundesrepublik Deutschland(ドイツ連邦共和国)」。

『セメンヤ、因縁の地で優勝 ベルリンの国際競技会』
性別問題がクリアされた陸上女子800メートルの世界選手権覇者、キャスター・セメンヤ南アフリカ)が22日、ベルリンで行われた国際競技会ISTAFの800メートルを1分59秒90で制した。7月に復帰してから2分を切ったのは初めて。
会場の五輪スタジアムは昨年の世界選手権でセメンヤが優勝し、性別問題が取りざたされた“因縁”の場所だった。
(2010年8月23日 共同通信

セメンヤ選手は、今年7月にベルリン世界陸上から 約11カ月ぶりの復帰を果たし、今回が復帰後3レース目にあたる。
大会前には、主催者を通じて「素晴らしいスタジアムとベルリンのファンとの再会を楽しみにしている」とコメントしていたとのこと(by共同通信)。
冒頭の写真を見ると、これが単なるおべんちゃらではないことがよくわかる。
軽々しく「性別問題がクリアされた」などと口にしてもらいたくないが、まずはセメンヤ選手が2分を切って優勝したことを言祝ぎたい。

ISTAF Berlin 女子800m決勝結果
1位 SEMENYA, Caster(RSA) 1:59.90(SB)
2位 KOECH, Cherono(KEN) 2:00.40(PB)
3位 CUSMA PICCIONE, Elisa(ITA) 2:00.44
4位 SIMPSON, Jemma(GBR) 2:00.57
5位 WURTH-THOMAS, Christin(USA) 2:00.61(SB)
6位 PLIS, Renata(POL) 2:00.76(PB)
7位 SUM, Eunice(KEN) 2:00.79
8位 CUMMINS, Diane(CAN) 2:01.11
※9位以下は割愛

8位までが約1.2秒の間にひしめく超混戦レース(レースの模様はコチラ)。
ペースメーカーで2分0秒76の記録を持つウクライナツバドスプ選手(たぶん読み方違う…)が58.48秒で400m通過。
スタートから300mくらいまで10番手前後に位置して余裕の走りを展開していたセメンヤ選手は、少し押し上げてくるがそれでもまだ7〜8番手(先頭とは約1秒差?)。
600mは、アメリカのワストーマス選手が1分29秒51で先頭通過。
セメンヤ選手は4番手(先頭とは約0.5秒差?)。
ポケットされ気味のラストの直線で、前の選手達の間にできた隙間をぬって先頭に立つと、まだ余力を残した(ような)走りで後続を引き離して余裕の勝利。
そう遠くない将来、1分55秒45のPB前後の記録も十分に予感させる走りである。
・ ・ ・
また、同大会でケニアルディシャ選手が、デンマーク(1990年にケニヤから国籍を移す)のウィルソン・キプケテル氏が1997年にマークした1分41秒11の世界記録を0.02秒更新する1分41秒09をマークして優勝(レースの模様はコチラ)。
ちなみにコー氏は「引退後、1992〜1997年は保守党のイギリス下院議員となり、2000年には一代貴族として男爵となる。2007年からは国際陸上競技連盟(IAAF)の副会長も務め、2012年ロンドンオリンピック招致委員会の委員長として開催誘致の成功に尽力。現在はロンドンオリンピック組織委員会会長(byウィキペディア)」となっている。

ISTAF Berlin 男子800m決勝結果
1位 RUDISHA, David Lekuta(KEN) 1:41.09(WR)
2位 LALANG, Boaz Kiplagat(KEN) 1:44.34
3位 KIPLAGAT, Abraham(KEN) 1:44.49
4位 MANZANO, Leonel(USA) 1:44.56(PB)
5位 KIVUVA, Jackson Mumbwa(KEN) 1:44.91
6位 KSZCZOT, Adam(POL) 1:45.07(PB)
7位 ALI, Belal Mansoor(BRN) 1:45.28
8位 MUTUA, David Mutinda(KEN) 1:45.97
※9位以下は割愛

7人のケニア人(ペースメーカーを含む)が出場して表彰台を独占。
ペースメーカーであるケニアタングイ選手が48.65秒で400mを通過(タングイ選手のPBは1分52秒台となっているが、どう見てももっと速そう…)。
2番手で通過したルディシャ選手とタングイ選手との差はおよそ4m(時間にして約0.5秒くらいか?)
ルディシャ選手の400m通過は、49秒2前後と推定される。
450mでペースメーカーに追いついたルディシャ選手は、その後さらに後続を引き離し、600mを1分14秒54で通過(400〜600mが25.3秒前後…速ぇ〜っ!!)。
上がりの200mは26.55秒(となると2周目は51.9秒くらいか?)。
前世界記録保持者のキプケテル氏は、1997年に3度の世界記録をマークしている(正確に言うと1度目はタイ記録)。
1度目は、英国の英雄セバスチャン・コー氏がもっていた当時の世界記録タイの1分41秒73。このときは、1周目を49.61秒で通過し、2周目を52.12秒で上がっている。
2度目は、1分41秒24。このときの1周目は48.34秒(速すぎ!)、2周目は52.90秒。
そして3度目(すなわち前世界記録)は、1周目を49.31秒で通過し、2周目を51.80秒で上がっていた(レースの模様はコチラ)。
今回のルディシャ選手のレースパターンは、このときに酷似している(100m毎にみたら少し違うかも…T大コーチK君情報を待つ!)。
ちなみに世界記録達成時における1週目の最速ラップはキプケテル氏(2度目の世界記録更新時)の48.34秒、2周目の最速ラップは1966年にジム・ライアン氏がマークした51.6秒(1周目が52.7秒通過の1分44秒3)といわれている(by Tucker博士)。
畢竟この約40年間、2周目のラップにはほとんど変化がないということができる(詳しくはコチラの論文を参照)。
果たして人類は、この最速ペースの組み合わせによって1分40秒を切ることができるのか?
400mで45.50秒のPBをもつ21歳のルディシャ選手は、その可能性を充分に秘めている。