わかるということ

moriyasu11232008-03-04

昨晩、二人の畏友と杯を傾けた。
ひとりはスポーツバイオメカニクスに研究の軸足を置くK君(野球家、アメフト家)、いまひとりは運動生理学に研究の軸足を置くK君(柔道家)。いずれも屈強かつ優秀な若き研究者である。
場所はいつもの新宿ホルモン。相変わらず旨い(ゆでたんサイコー)。
彼らと飲むのは、とても愉しい(二日酔いはつらいけど)。
なぜだろう?
飲んで愉しいことの理由についてあれこれ考えることの野暮は承知の上で、あえてそのことについて考えてみたい。
バカ話が楽しいから?(大半はバカ話だし)
先輩面しながら飲めるから?(二人とも年下なので)
それもあるかもしれない(でも違う気もする)。
もうひとつ思い浮かんだことがある。
彼らは、よく私の意見に首を傾げて「そうかなぁ〜」「どうかなぁ〜」という意思表示?をしてくれる。考えてみれば、私の周りには他にもそういう人がたくさんいる(ありがたいことである)。
もちろん私が素っ頓狂なことを言っているからかもしれない(たぶん)。でも、彼らは私の短見愚見にも耳を傾けてくれて、腑に落ちなければ首をクネクネさせながら、ときには別の視点を提供してくれる。私もまた、その視点を自分のなかに取り込めるのかどうかについて、それこそ全身を使って考量する。
そのとき、自分のなかの何かが、押し広げられたような気がする(う〜ん快感)。
だから愉しいのではないか、と思う(もちろんバカ話もだけど)。
昨年5月、九州本部T君にお呼ばれして、地域スポーツ指導者の方々に「子どもの体力」に関する講演をさせてもらった(また呼んでねT君)。その内容については恥ずかしいので割愛するが、後日送られてきたアンケートには、ほとんどの人が「よく理解できた」「わかりやすかった」と回答してくれていた。
演者としては、ポジティブに受け止めるべき評価なのかもしれない。
しかし、私の話は「子どもの体力問題って、巷間言われているようにクリアカットできる問題ではない。なぜなら身体って骨もあるし腱も靱帯も筋肉もあるから固くて切れない…」という内容だったので(違うけど)、「よく分かった」という回答は、実は「分からなかった」と言われているのに等しい。
ひとりだけ「子どもの体力問題が、ほんとうに難しい問題だという事だけは分かった」と書いてくれた学生さんがいたことに、ちょっとだけ救われたのを思い出した。
「分かる」というのは、恐らく自分のなかに「さらっと」取り込めることではなく(さらっといけるのは既に分かっているから)、むしろ「分からないもの」を自分のフレームのなかに無理矢理ねじ込んでいくプロセスのことを指すのだろう。
そしてこのとき、未知を取り込む「スペース」をむりやり押し広げようとするのだから、当然、既存の知的秩序はそこかしこで破綻を来す。
この知的フレームの過渡期には、赤ちゃんが産道を通過するときに経験するのと同じように、どのシステムにも依存できない一種の酸欠状態に陥る。この「酸欠期」をノンブレスで泳ぎ抜くだけの「知的肺活量(by内田樹氏)」が不足している人間は、この状態に我慢できず、既存のフレームにしがみついたり、また安易にフレームの鞍替えしてしまう。
麻原彰晃のようなエセ宗教家にはまったエリート達は、クロールでは上手に泳げるけど、素潜りができないスイマーだったということか(違うか)。
スポーツでも同じことが言える(わお唐突)。
一度自分の限界を超えることができた人間は、必ずその「自分の限界を超えたやり方」に固執する。しかし、優れた選手や指導者はそのやり方に固執してはならないということ、すなわち「変化の仕方自体を変化させる」ことが重要であることに気付く。
「変化の仕方自体を変化させる」ためには、知的フレームワークを再構築するのと同様に、ある種の酸欠状態に陥らざるを得ない。蛇足だが、スポーツのトレーニングでは本当に酸欠になることもある(あ、これはあくまでもたとえ話で、実際には酸素はなくなっておらず…by八田秀雄氏)。
畢竟、この「全身の酸欠状態」に挑み続ける人間だけが、変化の仕方そのものを変化させ続けることができ、自身のパフォーマンスを高め続けることができるのだろう(うう、できていない…)。
ソクラテスは、それを「無知の知」と呼んだのである(たぶん)。
「未知(無知)との遭遇」をしたときには、慌てず騒がず「ほっほー、そういうことってあるかも…」とひとまず握手してみるのが、最適化された生存戦略といえるだろう(スピルバーグもそういっている)。
重要なのは、自身の最終判断の拠り所たり得る身体システムの構築を目指して、鍛錬し続けていくということであろう。そういう身体能力に支えられた知性でなければ、どれほど上質?なものであっても、いわゆる「現場」ではあまり使い物にはならない。
というわけでK&K君、また飲んでね。