謹賀新年と箱根駅伝

moriyasu11232010-01-07

明けましておめでとうございます(遅ればせながら…)。
本年もご笑覧のほど、宜しくお願いします。

『“山上り偏重”に疑問の声も、陸連会長は各校の奮起促す』
関東学生陸上連盟の青葉昌幸会長は、東洋大が連覇した箱根駅伝について「山上りの1区間だけで(勝負が)決まるのは寂しい。本来は10区間の総合力で戦うのが駅伝。柏原君を超える選手が出てきてほしい」と総括し、各校に奮起を促した。
5区は06年に2・5キロ距離が延びてから5年連続で逆転劇が起き、総合優勝をも左右。「1〜4区はもういらないんじゃないの」(瀬古利彦氏)など“山上り偏重”には疑問の声も出ているが、同会長は区間距離の再検討について「検討課題の1つ」としながらも「マラソンにつながる持久力を高める効果もあり、各校が指をくわえて見ているのでは困る」と話した。
(2009年1月4日 スポニチアネックス)

突出した存在が出現すると、必ず巻き起こる議論?のかたちである(出る杭は打たれる?)。
確かに、トップとの差4分26秒を逆転し、さらに後続を3分36秒も引き離した柏原竜二選手の「激走」を抜きにして、東洋大の二連覇を語ることはできまい。
蛇足だが、記事タイトルにある「陸連会長」という表現は大変まぎらわしい(日本陸連会長と混同する)ので、本来は「学連会長」として欲しいところである。

ここ数年、5区・山登りの走りが優勝に直結する奇妙な展開が続いている。今年の柏原も例外でなく、実にミラクルぶり。彼の快走が優勝を生んだというのは、紛れもない事実である。
実際、柏原を除いた東洋大9人の区間順位(20人中)は1区5位−2区10位−3区10位−4区4位−6区9位−7区1位−8区2位−9区10位−10区7位…7区の田中貴章(2年)と8区の千葉優(3年)以外はパッとしていない。まさに、“山の魔人”サマサマなのだ。
この結果を踏まえ、復路が終了した後に“敗者”の監督から噴出したのが「5区の距離」について。06年(今年で5年目)から、2.5キロ延伸し現状の23.4キロと「最長区間になっている距離を改善すべき」の声が出たのだ。
「試合後、山梨学院大上田誠仁監督、東海大の新居利広監督、上武大・花田勝彦監督らが主催の関東学生陸上連盟の青葉昌幸会長に“山登りだけでもキツイ。それなのに最長区間というのは選手の負担が大きく、選手は壊れてしまう”と旧来の長さ(20.9キロ)に戻すよう要請したのです」と、語るのはスポーツ紙記者。
新規格になってから、5区には“山の神”今井正人(順大)が2年連続で区間記録を樹立し卒業。間を1年空け、その後を受けたのが件の柏原で2年連続区間新。しかも、この5年で今井、柏原を擁した順天堂大東洋大が3度、覇権を制している。
(2009年1月6日 リアルライブより抜粋)

中継所変更の顛末や、解説者の「失言?」云々についてご興味がおありの方は、上記の記事全文を参照されたい。
斯界の喧噪とは裏腹に、世間様の評価は誠にクールかつリアルである。
唐突だが、ここで各チームの区間順位を合計してみる。
1位東洋大:1区5位−2区10位−3区10位−4区4位−5区1位−6区9位−7区1位−8区2位−9区10位−10区7位で、トータル59位(単位が適当かは不明)。
2位駒沢大:1区18位−2区3位−3区16位−4区8位−5区4位−6区1位−7区4位−8区3位−9区1位−10区3位で、トータル61位。
3位山学大:1区7位−2区7位−3区2位−4区14位−5区2位−6区3位−7区11位−8区9位−9区9位−10区9位で、トータル73位。
4位中央大:1区6位−2区13位−3区8位−4区4位−5区3位−6区2位−7区9位−8区17位−9区12位−10区2位で、トータル73位。
5位東農大…「助さん格さん、もういいでしょう!(by水戸黄門)」
多くの報道(&関係者)が指摘するように、東洋大が「山の神頼み」一辺倒のチームであるとすれば、東洋大よりも順位合計数の少ないチームがひとつくらいあってもバチはあたるまい。
全チーム計算してないから、もしかしたらあるかもしれない(たぶんないけど…)。
また、駒沢大が1区18位、3区16位、山学大が4区14位、7区11位、中央大が2区13位、8区17位、9区12位など11位以降の区間が複数あるのに対して、東洋大は全ての区間を10位以内に収めている。
むろん「エビデンス」としての確度を高めるならば、順位だけではなくタイム差なども含めて詳細に検討する必要があるだろう。
が、そこまでの時間は私にはない。
が、タイム職人としては、多少はタイム分析もしておかねばなるまい。
東洋大と2位駒沢大のタイム差は「3分46秒」。そして、駒澤大が18位、16位とした1区と3区でついた差は「3分20秒」。
仮に、両校がこの2区間を互角に走っていたとすれば、大手町での差は僅か「26秒」という大変にスリリングな展開になっていたのである(「タラレバはない」とか「駅伝は単純な算数ではない」というご指摘は一切受け付けない)。
いずれにせよ、走行距離にして200km超、時間にして11時間超の長丁場を10人のリレーによって競う駅伝の勝敗は、そう簡単に決するものではないのである。
スポーツライターの加藤康博氏は、今回の箱根駅伝を以下のように総括している。

東洋大、連覇を引き寄せた3つのポイント』
■ポイント1:日大、山梨学院大は3区までにもたついた
今大会の最初のポイントは3区までの序盤である。過去2大会、1区はスローな展開でレースが進み、15キロを過ぎてからのスパート合戦で2区へ中継することが多かった。(…)しかし、今大会は29分7秒とハイペースで通過。この時点で先頭集団はすでに9校に絞られていた。その展開に付いていけないチームは一気に差を付けられることになった。(…)
「序盤、テンポが上がった時に対応できなかった。1区では1分から1分30秒の差は覚悟していたが、トップと2分47秒差まで広げられたのは、大きな痛手だった」(駒大、大八木弘明監督)
この区間東洋大はチームトップのスピードランナー、宇野博之(2年)が担当。区間順位は5位だったがトップと大きく離されることなく、2区へつないでいる。
そして各校のエースが集う2区。日大のギタウ・ダニエル(4年)が一気に抜け出すことはどのチームも想定していたことだろう。しかし1区で13位と出遅れた日大はこの区間で2位止まりとトップに上がることができなかった。同様に山梨学院大も3区、オンディバ・コスマス(2年)が走り終えた時点で2位。上位をうかがう2校は序盤でもたついた感がある。
東洋大はというと、3区を終えた時点で、トップ明大と3分9秒差の9位、さらに、5区の柏原にたすきが渡るときには、その差は4分26秒にまで広がった。しかし、この差は東洋大にしてみれば、許容の範囲内。なぜならば前回大会、5区の柏原はトップ早大と4分58秒差を逆転していたからだ。
■ポイント2:勝負を決めた山
今大会の目玉、柏原は期待以上の走りだった。その快走ぶりは各メディアで取り上げられている通りだ。ほかにも上位に食い込んだチームは軒並み、山区間の5区、6区をうまく走った。東洋大は6区の市川孝徳(1年)が後続に差を詰められながらも、余裕のある差(2位山梨学院大に2分50秒差)を保ったまま7区につなげたことが大きい。
対照的に早大は5区で八木勇樹(2年)が区間9位、そして6区で加藤創大(4年)が区間16位となり9位まで順位を落とす。「山の差で勝負が分かれた。一から出直しです」とは早大渡辺康幸駅伝監督の弁である。(…)
■ポイント3:12番手まで充実している東洋大
東洋大はここからも盤石だった。7区の田中貴章(2年)、8区の千葉優(3年)は独走になっても、走りが崩れることはなかった。「前半は抑え目に入り、後半にペースアップするように」という酒井俊幸監督の指示を守り、田中が区間賞、千葉も区間2位の走りで、後続を引き離すことに成功する。
「単独走は練習でもやっているから不安はなかった」と酒井監督が言う通り、唯一不安のあった復路のエース区間9区を前に2位との差は5分25秒。もう後ろを振り返る必要のないだけの差を付けた。
2位以下はすべてのポイントでそつなくこなした山梨学院大が3位、中大が4位に入った。復路で驚異的な追い上げを見せた駒大は2位にまで順位を上げるも、最後まで序盤の出遅れが響いた格好となった。
柏原の作る貯金があるからこそ、ほかの区間の選手もゆとりを持って走れたことは間違いない。しかし「1番手から12番手まで大きな力の差がない。特に8番手から12番手の選手の層が厚かった」(酒井監督)という選手層の厚さも見逃してはならない。(…)
(2010年1月4日 スポーツナビより抜粋)

さすがに陸上競技以外にも数多くのスポーツ取材を手がけている加藤氏だけあって、私のしょぼい分析を十分に補完して頂いている。
今回のメンバー8人が残る東洋大に立ち向かえるチームは、果たしてあるのか。
少なくとも、山登り(5区)の有利不利を論じている限り、結果は推して知るべしであろう。
ただし「山登りだけでもキツイ。それなのに最長区間というのは選手の負担が大きく、選手は壊れてしまう(by各校監督)」という指摘については、学連として真摯に傾聴しつつ、その是非について十分に精査する必要があるだろう。
そもそも、この東京箱根間往復大学駅伝競走箱根駅伝)は、「五輪で日本を強くするために、長距離、マラソン選手を育成すること(by金栗四三氏)」を目的に始まった大会なのだから…