日本陸連中距離合宿 in NTC

moriyasu11232010-02-07

2月4日〜7日の日程で、日本陸連中距離ブロックの測定・研修合宿が行われる。
5日(金)には、この時期の合宿恒例となったコスミンテストが実施される。
テスト終了後の高校生男子(阪本大樹選手&笹村直也選手)は、まさに「ボノさん(by横田真人選手)」状態になっていた(気の毒なので写真は不掲載)。
日本陸連科学委員会では、日本の中距離レース(選手)は、世界レベルのレース(選手)に比べて200m〜500mでの速度低下が顕著であることを示唆している。
これは、インターハイ、インカレ、日本選手権ほか多くの国内レースにみられる共通の特徴である。
「勝負」や「失敗回避」を最優先するレースパターンといえるが、「記録」を競う競技である以上、そのようなレースを繰り返すことによる「負の学習効果」も看過できない。

『ザトペックが創造したインターバルトレーニング
 私は考えたわけです。
 繰り返すだけでは復習しかないことと同じだと。
 予習、すなわち新しいことを習わなければ、進歩がないと。
 そこで予習とは何だろうと思ったときわかったのがスピードです。
(山西哲郎「創造性とスポーツトレーニング」体育の科学 58巻2号より抜粋)

「ペース戦略」とは、時々刻々の疲労情報から未来(ゴール)を予測し、その予測情報をもとに時々刻々の努力感を調節する「制御システム」のことを指す。
このシステムの「安定」は、すなわちパフォーマンスの「安定」を意味するが、パフォーマンスを「向上」させるためには、当然システムの「解体&再構築」が必須となる。
前出の横田選手は、大学2年次に出場した07年大阪世界陸上の予選において、当時のPB記録(1:47.16)をマークしているが、その時も200m以降で著しく速度を低下させている。
実はこのレースまでの準備において、科学委員会とのやりとりの中で確認していた「スタートからのスムーズな加速&400mまでのつなぎ(&52秒台通過)」という課題を解決するべく、スタート〜オープンコースまでの入りの練習や200m〜400mまでのつなぎ練習をかなり入念に行っていた。
実際のレースでも、スムーズな加速で好位置をキープしたままオープンコースに入り、完全にレースの流れに乗ったかのように見えた。
そして、関係者一同が「よしいいぞ…」と身を乗り出した瞬間、バックストレートで後方に引いてしまう。
横田選手は、このときのレースについて「世界トップレベルの選手が間近にみえた瞬間、ブレーキをかけてしまった」と後述している。
ここに「わかっちゃいるけどやめられない(by植木等)」という言葉に代表される「身体制御システム」の「解体&再構築」にまつわる困難性が見て取れる。
苦しさや疲労度といった主観的な情報と走速度との関係によってつくられた脳「プログラム」は、常に「安定」や「快適」を求める「身体制御システム」との相互関係によって構築されている。
したがって、この書き換え作業は、単一プログラムに留まらない、システム全体の解体&再構築を必要とするため、極めて戦略的かつ体系的に行われなければならない。
陸連中距離ブロックでは、この「書き換えツール」のひとつとして「コスミンテスト」を採用しているのである。

ちなみに1分46秒1で走ろうとすると935m走る必要があります。
確かに、日本記録を出した3日まえの刺激(500m)を終えた後は、これぐらいいけそうな感覚はありました。
いまの時期(冬季折り返し)に自分の現状を知る事はすごく大事な事だと思います。
この時期にベストタイムで走ることはおそらくないと思いますが、動きの部分と今後の課題が明確になるはずです。
(2010年2月5日 「コスミンテストとボノさん横田真人選手ブログ)」より抜粋)

大阪世陸での経験を身体に刻み込み、世界レベルに照準した地道な取り組みの結果が、昨年の日本選手権におけるかっ飛ばし独走レースを経て、日本記録更新に結実したと言えるだろう。
夜のミーティングでは、テスト時の映像を確認しながら、どのような意図を持ってテストに臨み、実際に走ってみてどうであったかについて、選手ひとりひとりによるマイクパフォーマンスが展開される。
どうやら「ボノさん」達にも、「1本目突っ込んだけど2本目も意外に走れた」とか「1本目が終わって余裕があったにもかかわらず2本目が走れなかった」などなど、それぞれに「フィードバック」がかかったようである。
3月の沖縄合宿時には、再びコスミンテストを行う予定である。
ちなみに昨年は、横田選手が2月時点で「898m」、口野武史選手は「2月→3月」で「885m→895m」と距離を伸ばしている。
今回のフィードバックを元にして、1ヶ月後までに「どのように走れば最も走行距離が長くなるのか?」という「正解のない問い」についてしっかりと「予習」をしてから「テスト」に臨んでもらいたいものである。
* * *
翌6日(土)は、ランニング学会の「指導員養成研修会」のため、大阪学院大学へ出張。
東京駅で新幹線に乗り込み一息ついていると、「途中降雪による徐行運転のため新大阪到着が30〜40分遅れる予定」という車内放送が流れる。
げ。
30〜40分前に研修会場に到着する予定でとったチケットである。
関係者に携帯で連絡するも繋がらず。
800mレースと同様、中盤での速度低下はパフォーマンスに大きく影響するが、安全を最優先するJRの「制御システム」を解体する訳にはいかない。
出発後、少しずつ到着予定時刻との差が縮まり、15分前には会場に到着(いいぞJR!)
雪がちらつく中での実技講習を終えた受講生の方々が、暖房の効いた講堂に続々と入室される。
子守歌にならないようにと「ランニングの科学(バイメカ系)」というタイトルとはかけ離れた内容の話をたっぷりとしてしまうも、受講生の方々は大変熱心に耳を傾けてくださった(がもう呼ばれないだろう)。
合宿&講習会関係者の皆様、ありがとうございました。