日本陸連ハードル合宿 in 福岡

moriyasu11232010-01-24

陸連ハードル部長のお膝元で、18日から24日まで標記合宿が催される(小生は22日夜入り)。
23日夕刻から、研修会&選手へのヒアリング。
研修会では、400mHの世界記録および歴代日本記録のレース映像や世界および日本10傑平均の推移などを皮切りに、選手自身によるレースパターンの意図や課題についての説明、疲労に関する生理学的なメカニズムの解説といった流れのなかで、大変マニアックなやりとりが展開される。
400mHのパフォーマンスは、おおよそ2台目のハードルを越えるまでに立ち上がる最高速度の高さと、その速度をどれだけ長く維持できるかによって決まるという原理・原則がある(当たり前だけど…)。
無論、単に最高速度が高いだけ、あるいは速度を長く維持できるだけで、400mHのパフォーマンスが高まる訳ではない。
したがって、できるだけ努力感の少ないかたちでレース前半の走速度を高めていくこと、すなわち「楽に速く」という「矛盾」に引き裂かれるトレーニングを構想&実践しつつ各選手オリジナルの「前半型」を確立することが、「疲労を先送りする」かたちでレース中後半の速度維持に繋がる。
というような話をしたところで、部長から「(世陸ファイナリストになる前に)長めの距離を走るトレーニングにおいて後半まで速度を維持できる技術&体力を確立した結果、(心理的に)自信を持って前半からハイペースのレースパターンに挑めるようになり、それがさらなる「前半型」追求への布石となった」という補足があった。
なるほど。
これこそ、まさに心技体の相補的トレーニング(効果)の神髄と呼べるものなのかもしれない。
本来「科学的トレーニング」とは、トレーニング効果を最大限に引き出すために「心・技・体」のあらゆることが「綜合的」に考慮された「相補的トレーニング」のことを指す。
換言すれば、そこで考慮されていることの多寡とその優先順位付けの妥当性が、トレーニングの「科学性」を基礎づける。
選手やコーチは、日々のトレーニングや試合で知覚された「事実・事象」を材料として、頭の中で考えられた検証される前の理論すなわち「仮説」を立て、それをもとにしたトレーニングを計画し実践する。
この「仮説&トレーニング」の妥当性は、再び時々刻々の「事実・事象」とつけあわせつつ検証され、その積み重ねの結果が「実証された事象間の関連(こうすればああなる)」としての「理論」となる。
畢竟、確固たる「事実」の裏づけがあり、かつこの「理論」に基づいて「事実」が起きていると多くの人に、あるいは自分の中に確信として顕れたものが『(科学的)理論』ということになるのである。
閑話休題
研修会の後、前半を13歩で走る選手3名と、14歩で走る選手2名に分けてのヒアリング(社会人選手と学生選手でペアリング)。
事前に選手に記入してもらったアンケート内容(ロンドン五輪に向けた中長期および今年の目標、現状分析と課題、課題解決のためのトレーニング目標、合宿以降の具体的なトレーニングおよび試合計画など)をベースに、記述の行間を埋めるための情報を収集する。

コーチングのそもそもの意味は、「相手の望むところへ導くこと」と考えられる。
そして、その「望むところ」は、単なる客観的な目標に留まらず、その状態であったり、あるいは技術やスキルなどなど様々であるため、相対する人間の背景を知らず、また関心を寄せることもなくそこに導くことは、ほとんど不可能である。
相手の「背景」を知ると、その捉え方が「点」から「線(あるいは面)」に移行する。
(2009年12月24日 拙稿「背景への関心」より抜粋)

分析されたデータは、数字が羅列された単なる「情報(点)」に過ぎない。
しかし、そこに質的な「情報化プロセス」が重ね合わせられると、単なる「点」が「線」としての意味を帯びてくる。
「線」で捉えようとすれば、仮に自分の理論とは異なる「現象」が眼前に立ち現れたときにも、その背景にまで意識が及び、表面的な「決めつけ」が起こらなくなくなり「判断」を先送りすることが可能になる。

失敗学のすすめ (講談社文庫)

失敗学のすすめ (講談社文庫)

(「技術」や「組織」が成熟期を経て衰退へ向かうという)この厳しい宿命を乗り越えるためには、新しい技術、新しい組織をつくる形で古いものとの置き換えを行わなければなりません。衰退の段階までに新しい萌芽をつくり、次の文化を築かないことには、その組織の未来はないのです。
若い社員たちの使命は、大きく分ければふたつあります。ひとつは今後、封印を守り続けること、そしてもうひとつは、封印が解かれるまでに、新しい封印技術の開発をしておくことです。
(by畑村洋太郎氏)

今回の合宿は、若手(学生)選手とシニア(社会人)選手がバランスよく参加し、強化合宿という厳しさのなかにも和気藹々とした空気が漂う、とってもよい雰囲気で行われていた。
また、あえて相部屋とするなど、情報交換の「場」を活性化させるための気配りもなされていた(夕食時には選手同士の暴露大会…)。
この積み重ねが、必ずや日本ハードルブロックの「新しい封印技術の開発」に繋がると確信する。
ちなみにこの日、布団に入ったのは丑三つ時(2時半過ぎ)…
美味しい刺身やもつ鍋を食べて、ワインも飲んで、さらにとんこつラーメン(+替え玉)まで食べたのは夢か?幻か?(部長、ごちそうさまでした)。
選手&スタッフの皆様、お疲れ様でした。